• 秋月 偲希

【ラクダと風】

砂漠のなかに井戸がありました。


そこに、ラクダがやってきました。


ラクダは目の前にある井戸が欲しくてたまりません。


井戸もラクダのほうをじっと見つめていました。


砂漠のなかの井戸は、必要とされたいがためにラクダに声をかけました。


「ここにいるよ」


ラクダは井戸に飛びつきました。


来る日も来る日もラクダは井戸の水を飲んでいきます。


井戸は言いました。


「あなただけの井戸になります。

わたしを色んな世界へと連れて行ってください」


ラクダは言葉を濁します。


井戸は待ちました。一緒に旅立てる日を夢見て。


待てど待てど、ラクダは水を飲むばかり。


そんなときに井戸は風と出会いました。


風は井戸の水がなくなりそうなのを見て、雲をつくり、雨を降らせました。


たくさん、たくさん。


井戸にとっては衝撃でした。


井戸は与えるのが自分の役割だと思ってたのに、


まさか自分が与えられる存在になるとは。


元気を取り戻した井戸は、ラクダに告げました。


「わたしの水は わたしだけの水ではなくなりました」


ラクダは去りました。


そのとき初めて知りました。


ラクダのコブには既に水があったことを。


なのに、ラクダは井戸の水を飲み続けていたのです。


風のおかげで水いっぱいになった井戸は新たな旅をはじめました。


風とともに。