わたしには小さい頃、絵本を読んでもらった記憶がない
母は仕事も家事も頑張るスーパーマンだったからだ
なのに、わたしは絵本をかいている
いや、実際には絵は描かない絵本作家なので
絵本をつくっているのだが
絵本にそこまで思い入れがないわたしが
まさか絵本をつくっているなんて
子どものころのわたしは想像しただろうか
小さい頃、わたしはアイドルになるものだと思っていた
子どもながら、居酒屋さんに家族といくことが多かったのだが
そのカウンターがわたしのステージだった
カウンターとテーブルが3つほどの
こじんまりとした温かいお店
お腹が満たされると、まだまだ帰りそうにない親を
つまらなさそうに見ていた
時間が経つにつれて、みんなの声が大きくなり
笑い声が増えていく
この茶色の瓶から出る飲み物は
なにか楽しくさせる魔法がかかっているんだと思い
何度も「飲みたい!」とせがむも断固拒否されつづけた
けど、断固拒否されればされるほど
茶色の瓶から出るしゅわしゅわの液体は
魅惑の飲み物へとなっていく
母親が席を外した隙に、魅惑の液体がはいったコップを手にし
大人たちだけの楽しみをわたしも手に入れようとした
…うぇ
よくばって、勢いよく口のなかパッンパンに流し込んだものだから
そのまま綺麗に口から溢れ出た
こんなもの、口にいれるものじゃない
飽きもせずに、不快な飲み物を飲み続ける大人を変だと思った
なにもすることがなくなったわたしは
魔法が解けた瓶をおもちゃにした
食べ終わったお箸でその瓶をたたいて遊んでいると
「お!シキちゃん歌ってくれるんか!」と
魔法が解けてない、いつもいるおじちゃんに声をかけられ
天邪鬼なわたしは
「えー、いややー」とかいいながらも
大好きなセーラームーンの歌うたった
♪ごめんね、素直じゃなくって 夢のなかならいえる~
これがカウンターで歌って踊るアイドルの誕生の瞬間だ
ここの居酒屋にいくと
いつもカウンターで歌って踊っていた
みんなが笑顔になってくれる
それがとても嬉しかった
あんなに人前で表現するのが楽しかったのに
いつからだろうか、この範囲をこえたらダメみたいな
目に見えない境界線を意識するようになったのは
少しでも、そこからずれると変な目でみられる
自分を表現すると、変わった子ね、と言われる
それが怖すぎて、誰かの求める子どもへとなっていた
楽しいお友達のわたし、先生が求める優等生のわたし
親が応援する一生懸命のわたし
いつのまにか、たくさんの「わたし」ができあがった
するとどうだろう
わたしが思う「わたし」がいなくなったではないか
どこにいったんだろう
それを必死に探すも「わたし」はいない
どんどんと心と頭と体がバラバラになっていき
どんどんとコントロールできない不調に見舞われた
どれだけ時間がかかったのだろう
そのときの光が「物語」だった
映画、小説…
その中に入り込み、ときには勇敢な戦士になったり
世界を旅する主人公、雷が打たれるような恋愛をしたり
たくさんの世界をめぐっていた
物語を自分でも書いてみたいと思い、そのときちょうど
携帯小説が流行っていたので誰にもみせずにひっそりと書いていた
そんな中、大好きな友達に赤ちゃんができたと嬉しい連絡が
唯一無二の贈りものでこの喜びを祝福したいと思い
あかちゃん×物語=絵本
という単純な計算式で絵本がでてきた
けど、絵は描けない
共通の友人にお願いし、一緒に絵本をつくることになった
あかちゃんが生まれて、わたしがその子に伝えたいこと
「あなたのお母さんはこんなにも心優しくて、
みんなの光なんだよ」
絵本を無事にプレゼントできたとき
はじめて人に物語をみてもらったとき
「ありがとう」と笑顔がみれたとき
久しぶりに「わたし」に会った気がした
その子ももう5歳
この前、わたしの似顔絵を描いてくれた
お腹のなかにいたのに
伝わったかな、優しいお母さんの光
絵本のことを知れば知るほど、深く絵本の中にはいりこんだ
同じ絵本を読んでいるのに、ほかの人と感想が違う
その人は恋愛の絵本として読んで、ほかの人は家族の絵本
わたしは人生の絵本だとおもった
絵本の短い文章と、寄り添うイラスト
行間で自分をみることができる
自分の経験や価値観を通して絵本を読んでいるんだと気づいた
読む人で変わる物語
その人の心を、絵本で映し出してくれるんだ!
絵本って子ども向けって思われるけど
ぜひとも、大人にこそ読んでほしい
絵本を通して、自分の心を触れてほしい
ちゃんと「自分」を生きてほしい
わたしが大人に向けて絵本をつくっている
今のわたしがつくられた
きっかけのひとつをお届けしました